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フォレンジック調査はやるべき?実施・中止の判断基準5つと費用、初動対応を解説

更新日:2026年02月18日

ITキャリア

1分でわかるこの記事の要約 フォレンジック調査は、全てのサイバーインシデントで必須ではなく、事業継続性やコストを考慮した判断が重要です。 実施判断は、インシデントの深刻度、法的義務、原因究明の必要性など5つの基準で評価し […]

1分でわかるこの記事の要約
  • フォレンジック調査は、全てのサイバーインシデントで必須ではなく、事業継続性やコストを考慮した判断が重要です。
  • 実施判断は、インシデントの深刻度、法的義務、原因究明の必要性など5つの基準で評価します。
  • 初動対応では、フォレンジックの有無に関わらず、最低限の証拠保全(メモリダンプ、ディスクイメージ取得)が不可欠です。
  • 信頼できる専門会社を選定し、平時からインシデントレスポンス体制を標準化しておくべきです。

サイバー攻撃や不正アクセスといったセキュリティインシデントが発生した際、「事業を止められない。一刻も早く復旧させたい」という現場の思いと、「原因を徹底的に究明し、再発を防止しなければ」というセキュリティ担当者の使命感との間で、対応方針に悩んだ経験はありませんか。

特に、詳細な調査を行う「デジタルフォレンジック」を実施するか否かの判断は、インシデント対応の成否を分ける重要な岐路となります。コストや事業停止を考えると、本当にフォレンジック調査は必要なのか、迷う場面も多いでしょう。 この記事では、フォレンジック調査を「やるべきか、やらないべきか」の判断基準を明確にし、インシデント対応を標準化するための具体的な考え方と境界線について、分かりやすく解説します。

フォレンジック調査を「やらない」判断が必要な3つの理由

セキュリティインシデントが発生すれば、直ちにフォレンジック調査を行うのが最善策だと考えられがちです。しかし、現実にはすべてのインシデントで詳細な調査を実施するのは困難であり、時には「やらない」という判断が最適な選択となる場合があります。その背景には、主に3つの理由が存在します。

1. 事業継続性の優先

製造業の工場ラインや金融機関の勘定系システムなど、停止が許されないクリティカルなシステムが攻撃を受けた場合、原因究明よりも迅速な復旧、すなわち「レメディエーション(復旧措置)」が最優先課題となります。長時間システムを停止してフォレンジック調査を行うことは、甚大な事業損失に直結しかねません。事業への影響を最小限に抑えるため、復旧を優先するという経営判断が求められるのです。

2. コストと時間の問題

高度な専門知識を要するフォレンジック調査は、外部の専門会社に依頼すると高額な費用がかかります。調査範囲や期間にもよりますが、数百万円から数千万円規模のコストが発生することも珍しくありません。また、調査には数週間から数ヶ月を要する場合もあり、その間、担当者は調査対応に追われ、本来の業務が滞る可能性もあります。インシデントの被害額や影響度に対して、調査コストが見合わないケースも十分に考えられます。

3. 費用対効果の視点

フォレンジック調査によって得られる情報が、必ずしもコストに見合うとは限りません。例えば、単純なマルウェア感染で、駆除とシステムのクリーンアップで対応が完了し、再発防止策も明確な場合、侵入経路の特定に多大なコストをかける必要性は低いかもしれません。

インシデント対応では、限られたリソース(人材、時間、予算)をどこに重点的に投下するか、というリスク評価に基づく判断が不可欠です。状況に応じて柔軟に判断する「トリアージ(優先順位付け)」の考え方が重要になります。


フォレンジック調査の実施を判断する5つの基準

では、具体的にどのような基準でフォレンジックの実施・中止を判断すればよいのでしょうか。ここでは、インシデント対応の初動で考慮すべき5つの重要な判断基準を解説します。これらの要素を組織内で事前に共有し、標準化しておくことが、迅速かつ適切な意思決定につながります。

1. インシデントの深刻度と影響範囲

最も基本的な判断基準は、インシデントが事業や組織に与える影響の大きさです。

個人情報や顧客情報、技術情報といった機密情報の漏洩が疑われる場合は、事実確認と影響範囲の特定が最優先となるため、フォレンジック調査の必要性は非常に高くなります。個人情報保護法などの法令対応の観点からも、客観的な調査報告書が求められます。

一方で、影響が特定の端末1台に限定され、機密情報へのアクセスもないマルウェア感染のようなケースでは、端末の隔離と初期化といった復旧措置で対応を完了させる判断も考えられます。

2. 法的要件・契約上の義務

自社が準拠すべき法令や、顧客・取引先との契約内容も、重要な判断基準です。

例えば、クレジットカード情報を扱う事業者であればPCI DSSへの準拠が求められ、インシデント発生時には詳細な調査と報告が義務付けられています。また、サプライチェーンにおける取引先との契約で、原因究明と報告が義務付けられている場合もあります。

将来的に攻撃者に対する法的措置(損害賠償請求など)を視野に入れるなら、法廷で通用するレベルの証拠保全が不可欠となり、専門家によるフォレンジック調査が必須です。

3. 原因究明と再発防止の必要性

インシデントの根本原因を特定し、確実な再発防止策を講じる必要性が高いかどうかも判断の分かれ目です。

攻撃の手口が巧妙で、ログ分析だけでは侵入経路や脆弱性が特定できない場合や、内部不正の可能性が疑われる場合は、詳細な調査が不可欠です。また、マルウェアが組織内に広く拡散(水平展開)している可能性がある場合も同様です。

一方で、既知の脆弱性を突かれた攻撃で、パッチ適用という明確な対策が見えている場合は、調査よりも対策の実施を優先する判断もあり得ます。

4. 許容できるコストと社内リソース

フォレンジック調査には相応のコストと、対応するための社内リソースが必要です。外部の専門会社に依頼する場合の費用を見積もり、予算内で対応可能か検討する必要があります。

同時に、調査期間中にCSIRT担当者などが調査に協力する人的リソースが割かれることも考慮しなければなりません。調査のためにシステムを停止させる場合は、その間の機会損失もコストとして計算すべきです。これらのコストと、調査で得られるメリット(原因究明、再発防止、信頼回復など)を天秤にかけ、費用対効果を冷静に評価する経営判断が求められます。

5. 経営判断とステークホルダーへの説明責任

最終的な判断は、経営層が行うべき重要な経営判断です。フォレンジック調査を実施し、第三者による客観的な報告書を作成することは、顧客、株主、監督官庁といったステークホルダーに対する説明責任を果たす上で極めて重要です。

特に、情報漏洩などの重大インシデントでは、企業のブランドイメージや社会的信頼が大きく損なわれる可能性があります。調査を行わない判断は、短期的なコスト削減には繋がるかもしれませんが、「隠蔽した」と疑われ、長期的に信頼を失うリスクを伴います。企業のレピュテーションリスクをどう評価するかが、判断の鍵となります。


【フローチャート】フォレンジック調査の実施/中止を判断するプロセス

上記の5つの要素を基に、インシデント発生時の判断プロセスをフローチャート形式で整理してみましょう。これはあくまで一例ですが、自社のガイドラインを作成する際の参考にしてください。

フローチャート:フォレンジック調査の実施/中止判断プロセス

  • ステップ1:インシデントの検知と初期評価

    • Q1-1. 個人情報や機密情報の漏洩、改ざんの可能性はありますか?
    • 【YES】→ ステップ2へ(フォレンジック実施を強く推奨)
    • 【NO】→ Q1-2へ
    • Q1-2. 事業継続に不可欠な基幹システムが停止または影響を受けていますか?
    • 【YES】→ ステップ3へ(復旧措置を優先して検討)
    • 【NO】→ Q1-3へ
    • Q1-3. 被害範囲は限定的で、影響は軽微ですか?
    • 【YES】→ ステップ4へ(フォレンジック中止を検討)
    • 【NO】→ ステップ2へ
  • ステップ2:法的・契約的要件の確認

    • Q2-1. 法令や業界規制、契約等で詳細な調査・報告が義務付けられていますか?
    • 【YES】→ 【判断A】フォレンジック調査を実施する。
    • 【NO】→ Q2-2へ
    • Q2-2. 攻撃者への法的措置を検討していますか?
    • 【YES】→ 【判断A】フォレンジック調査を実施する。
    • 【NO】→ ステップ3へ
  • ステップ3:原因究明の必要性と復旧のバランス評価

    • Q3-1. ログ分析等では原因特定が困難な、未知または巧妙な攻撃ですか?
    • 【YES】→ 【判断B】復旧措置と並行し、限定的な範囲でフォレンジック調査を検討する。
    • 【NO】→ Q3-2へ
    • Q3-2. 復旧を優先することで、原因究明の機会が完全に失われますか?
    • 【YES】→ 【判断B】復旧前に最低限の証拠保全(メモリダンプ、ディスクイメージ取得)を実施する。
    • 【NO】→ 【判断C】復旧措置を最優先で実施する。
  • ステップ4:フォレンジック中止の最終判断

    • Q4-1. 簡易的な調査(ログ分析など)で原因が特定でき、再発防止策が明確ですか?
    • 【YES】→ 【判断D】フォレンジックは実施せず、復旧措置と再発防止策に注力する。
    • 【NO】→ ステップ3へ

このフローは思考を整理するための一助です。実際の現場では、これらの要素を総合的に評価し、組織として最適な判断を下す必要があります。


フォレンジックを見据えたインシデント初動対応の5ステップ

インシデント発生時に都度判断に迷わないためには、平時から対応プロセスを標準化しておくことが極めて重要です。NIST(アメリカ国立標準技術研究所)のガイドラインなども参考に、自社に合ったインシデントレスポンス計画を策定しましょう。

1. 事前準備

インシデント対応の質は、事前準備で決まると言っても過言ではありません。CSIRTなどの専門組織を構築し、役割と責任を明確化します。また、対応手順や報告ルート、判断基準などを文書化した「インシデントレスポンスプラン」を作成し、定期的な訓練を行うことが重要です。

2. 検知とトリアージ

インシデントを検知したら、まず被害状況の初期把握と深刻度の評価(トリアージ)を行います。ここで、先述の判断基準に基づき、フォレンジック調査の必要性について一次判断を下します。この段階での迅速かつ的確な判断が、その後の対応の方向性を決定づけます。

3. 証拠保全:最低限やるべきこと

たとえ初動で「フォレンジックはやらない」と判断した場合でも、最低限の証拠保全は必ず実施すべきです。後から被害拡大が判明し、調査が必要になる可能性があるからです。一度システムを復旧させてしまうと、重要な証拠は失われてしまいます。

  • メモリダンプ:PCやサーバーのメモリ上の揮発性情報を取得します。実行中のプロセスやネットワーク接続状況など、電源を切ると消えてしまう重要な情報が含まれます。システム停止前に最優先で取得します。
  • ディスクイメージ:HDDやSSDの内容を完全にコピーしたものです。削除されたファイルの痕跡やログなど、非揮発性の情報が含まれます。不正アクセスの痕跡を後から詳細に調査するために不可欠です。

4. 封じ込め、根絶、復旧(レメディエーション)

証拠保全と並行して、被害拡大を防ぐ「封じ込め(感染端末のネットワーク隔離など)」を行います。次に、マルウェア駆除など原因を「根絶」し、最後にバックアップからのリストアなどで正常な状態へ「復旧」させます。この一連のプロセスがレメディエーションです。

5. 事後対応と報告

インシデント対応が完了したら、一連の対応を振り返り、調査結果を報告書にまとめます。明らかになった脆弱性や課題に対する恒久的な対策を立案し、再発防止に努めます。経営層や関連部署、場合によっては監督官庁や顧客への報告も行い、組織全体で教訓を共有することが重要です。


フォレンジック調査会社の選び方|依頼する際の4つのポイント

高度なデジタルフォレンジックを自社だけで行うのは困難なため、専門ベンダーに依頼するのが一般的です。その際の選定ポイントを4つ紹介します。

  1. 実績と専門性:自社と同じ業界や、類似のサイバー攻撃への対応実績が豊富か。特定のマルウェアや攻撃手法に関する深い知見を持っているかを確認します。
  2. 対応の迅速性:インシデントはいつ発生するかわかりません。24時間365日体制で、緊急対応の相談や依頼が可能かを確認しましょう。
  3. 報告書の品質:調査報告書が、経営層や法務部門、さらには法的措置の際にも通用する客観性と網羅性を備えているかは非常に重要です。サンプルなどを確認できるとよいでしょう。
  4. 費用体系の明確さ:調査範囲に応じた費用体系が明確に提示されているか、追加費用が発生する条件などを事前に確認しておくことがトラブル回避につながります。

情報処理推進機構(IPA)などが公開しているリストも参考に、信頼できるパートナーを平時から見つけておくことが、有事の際の迅速な対応につながります。


フォレンジック調査に関するFAQ(よくある質問)

Q1. フォレンジック調査の費用相場と期間は?

A1. 調査対象の機器の台数やデータの容量、調査の難易度によって大きく変動します。一般的なPC1台の調査でも数十万円から、大規模なサーバー侵害では数千万円規模になることもあります。期間も、初期報告に数日、最終報告までに数週間から数ヶ月を要するのが一般的です。依頼前に複数の専門会社から見積もりを取りましょう。

Q2. メモリダンプとディスクイメージ、どちらを優先すべきですか?

A2. 電源を切ると失われる「揮発性データ」を保全するため、メモリダンプの取得を最優先で行うべきです。その後、システムをシャットダウンする前にディスクイメージを取得するのが理想的な手順です。ただし状況によるため、専門家の指示を仰ぐのが確実です。

Q3. フォレンジック調査をやらない場合のリスクは?

A3. 主なリスクは以下の4点です。

  1. 根本原因が特定できず、同じ手口で再攻撃される
  2. 情報漏洩の有無や影響範囲が確定できず、顧客や監督官庁への説明責任を果たせない
  3. 潜伏しているマルウェアを見逃し、被害が再発・拡大する
  4. 法的措置に必要な証拠を確保できない

これらのリスクと調査コストを比較検討して判断する必要があります。

Q4. ログ分析だけで原因究明は可能ですか?

A4. ログを適切に収集・分析することで、原因究明に至るケースも多くあります。しかし、ログが改ざん・削除されていたり、ログだけでは追跡できない巧妙な攻撃だったりする場合、ログ分析だけでは限界があり、フォレンジック調査が必要となります。


まとめ:フォレンジック調査の判断基準を標準化し、有事に備えよう

デジタルフォレンジックは、サイバー攻撃の原因を究明し、再発防止策を講じるための強力な手段ですが、万能薬ではありません。インシデント発生時には、事業継続への影響、法的要件、コスト、説明責任といった複数の要素を天秤にかけ、フォレンジックを「実施する」か「実施しない」かを柔軟に判断する必要があります。

最も重要なのは、こうした判断を場当たり的に行うのではなく、平時から自社のリスク評価に基づいた判断基準とプロセスを組織内で合意形成しておくことです。本記事で紹介した考え方を参考に、自社のインシデントレスポンス体制を見直し、来るべき脅威に備えましょう。

この記事のまとめ
  • フォレンジック調査は万能ではなく、事業継続、法的要件、コスト、説明責任を考慮した柔軟な判断が求められます。
  • インシデント発生時は、平時から策定した判断基準と標準化されたプロセスに従い迅速に対応することが重要です。
  • 調査の有無にかかわらず、メモリダンプやディスクイメージ取得による証拠保全は必ず実施すべき初動対応です。
  • 信頼できる外部専門会社との連携を視野に入れ、継続的な再発防止策と体制強化が不可欠です。

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初回公開日:2026年02月18日

記載されている内容は2026年02月18日時点のものです。現在の情報と異なる可能性がありますので、ご了承ください。また、記事に記載されている情報は自己責任でご活用いただき、本記事の内容に関する事項については、専門家等に相談するようにしてください。

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