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SOARプレイブック入門ガイド|隔離から復旧までを自動化する設計例と「やりすぎ」を防ぐコツ

更新日:2026年01月20日

ITキャリア

1分でわかるこの記事の要約 SOARプレイブックは、セキュリティ運用におけるアラート疲れを解消し、インシデント対応を迅速化・標準化する強力な手段です。 マルウェア感染対応のプレイブックでは、検知、隔離、通知、チケット起票 […]

1分でわかるこの記事の要約
  • SOARプレイブックは、セキュリティ運用におけるアラート疲れを解消し、インシデント対応を迅速化・標準化する強力な手段です。
  • マルウェア感染対応のプレイブックでは、検知、隔離、通知、チケット起票、復旧までの一連のプロセスを自動化できます。
  • 自動化の失敗を防ぐには、ビジネス影響の大きい処理への「人手承認」導入、影響の少ないタスクからの「段階的実行」が重要です。
  • また、「監査ログ」を徹底的に取得・監視し、継続的にSIEMとの連携をチューニングすることで、安全性を高めます。
  • セキュリティ自動化はSOCの負荷軽減と投資対効果の最大化に繋がり、より高度なセキュリティ業務への集中を可能にします。
増え続けるセキュリティアラート、深夜のインシデント通知、そして終わりの見えない対応作業。多くのセキュリティ運用センター(SOC)のアナリストが、このような「アラート疲れ」に直面しています。手動でのインシデントレスポンスには限界があり、対応の遅れやヒューマンエラーがビジネスに深刻な被害をもたらすリスクと隣り合わせです。

この課題を解決する鍵が「セキュリティ運用の自動化」ですが、「どこから手をつければいいのか」「すべてを自動化するのは危険では?」といった不安を感じる方も少なくないでしょう。

本記事では、SOARプレイブックの基本から、具体的な設計例(隔離→通知→チケット→復旧)までを分かりやすく解説します。さらに、「人手承認」といった仕組みを組み込み、安全かつ効果的にインシデントレスポンスを自動化するための実践的ガイドを提供します。


SOARとプレイブックとは?セキュリティ自動化の基本を解説

セキュリティ運用の自動化を語る上で欠かせないのが「SOAR」「プレイブック」です。これらは、現代のSOCが直面する課題を解決するための強力なツールとなります。まず、それぞれの役割と関係性について、基本から理解を深めていきましょう。

SOAR:セキュリティ運用の司令塔

SOARは「Security Orchestration, Automation, and Response」の略で、様々なセキュリティツールやシステムを連携させ、定型的な作業を自動化し、インシデントへの対応を迅速かつ効率的に行うためのソリューションです。

SOARの主要機能

  • オーケストレーション (Orchestration): SIEM、EDR、ファイアウォールなど、サイロ化しがちな複数のセキュリティツールをAPI経由で連携させ、一つの画面から統合的に操作できるようにする仕組みです。情報収集や分析、対処といったプロセスを円滑にします。
  • オートメーション (Automation): これまで人手で行っていた繰り返し作業(アラート内容の確認、IPアドレスの評価、マルウェアの検体分析など)を自動で実行します。
  • レスポンス (Response): 上記の機能を用いて、脅威の封じ込めや駆除、復旧といった一連のインシデント対応アクションを実行します。

SOARは、セキュリティ運用における司令塔の役割を担い、プロセス全体の最適化を実現します。

プレイブック:インシデントレスポンスの自動化設計図

プレイブックとは、特定のセキュリティインシデント(例:マルウェア感染、フィッシングメール受信)に対して、「誰が」「いつ」「何をすべきか」を定義した一連の手順書、つまりワークフローのことです。SOARにおけるプレイブックは、この手順書をコード化したものであり、自動化の設計図そのものと言えます。

プレイブックを整備することで、インシデント対応プロセスが標準化され、担当者のスキルに依存しない、一貫性のある高品質なレスポンスが可能になります。具体的には、アラート受信後の情報収集、危険度の判定、端末の隔離、管理者への通知、チケット起票といった一連のタスクを、条件分岐などを交えながら体系的に定義します。

SOARとSIEMの違いと連携の重要性

セキュリティ運用の自動化を成功させる上で、SOARとSIEM(Security Information and Event Management)の連携は極めて重要です。

SOARとSIEMの役割

  • SIEM: 組織内の様々なシステムからログを収集・分析し、脅威の兆候を「検知」するシステム。セキュリティの「監視カメラ」の役割。
  • SOAR: SIEMが検知した脅威アラートを受け、その後の調査や隔離、復旧といった「対応」を自動化するシステム。いわば「自動化された警備システム」。

SIEMが発報したアラートを「トリガー」としてSOARのプレイブックが起動することで、「検知」から「対応」までのプロセスがシームレスに繋がり、インシデントレスポンスの初動を劇的に高速化できます。ただし、自動化の質はSIEMアラートの精度に大きく依存するため、相関ルールの継続的なチューニングが不可欠です。


【実践】SOARプレイブック設計例:マルウェア感染対応の自動化フロー

理論を理解したところで、次はより実践的なプレイブックの設計例を見ていきましょう。ここでは、発生頻度が高い「マルウェア感染の疑い」シナリオを想定し、検知から復旧までの一連のワークフローを4つのフェーズに分けて解説します。

フェーズ1:検知とトリアージの自動化 (SIEM連携)

インシデント対応の出発点は、脅威の正確な検知です。このフェーズでは、SIEMからのアラートを起点に、SOARが初期調査を自動で行います。

  • SIEMがアラートを発報:SIEMが「不審なドメインへの通信」と「不審なプロセスの実行」を同一端末で検知し、「マルウェア感染の疑い」アラートを発報します。
  • プレイブックが起動:上記アラートをトリガーに、SOARのプレイブックが自動で起動します。
  • 情報収集とエンリッチメント:SOARがSIEMからアラート情報(IPアドレス、ファイルハッシュ等)を取得。さらに外部の脅威インテリジェンス(例:VirusTotal)に自動で問い合わせ、ファイルやドメインの危険度を評価(エンリッチメント)します。

これにより、アナリストは手作業での調査から解放され、アラートが真の脅威かどうかの判断材料を迅速に得られます。

フェーズ2:初動対応の自動化 (端末隔離・通知)

エンリッチメントの結果、脅威度が高いと判定されると、被害拡大を防ぐための初動対応が自動的に実行されます。

  • 端末の自動隔離:プレイブックがEDR(Endpoint Detection and Response)ツールとAPI連携し、感染が疑われる端末をネットワークから自動で隔離します。これにより、マルウェアの横展開を防ぎます。(※後述の「人手承認」を挟むのが一般的です)
  • 関係者への自動通知:SOARがSlackやMicrosoft Teams、メール等と連携し、SOCチームやシステム管理者へインシデント発生を即時通知します。通知には発生時刻、対象端末、脅威内容、実行された措置などが含まれます。

フェーズ3:インシデント管理と分析 (チケット自動起票)

インシデント対応の記録と進捗管理も自動化します。

  • ITSMツール連携:初動対応が完了すると、プレイブックはJiraやServiceNowといったITSMツールと連携します。
  • チケットの自動起票:調査に必要な情報(SIEMアラート内容、エンリッチメント結果、隔離ログ等)をすべて集約したインシデント管理チケットを自動で作成します。

これにより、アナリストはチケットを見るだけで状況を正確に把握でき、スムーズに詳細分析へ移行できます。

フェーズ4:復旧と事後対応 (Remediation)

アナリストによる詳細調査と原因特定後、復旧フェーズへと移行します。

  • 脅威の駆除:アナリストの判断に基づき、SOARがEDRツールと連携して端末上のマルウェアを駆除したり、パッチ管理システムにパッチ適用を指示したりします。
  • 隔離の解除とクローズ:脅威が完全に排除されたことを確認後、アナリストの承認を経て、隔離されていた端末のネットワーク接続を復旧させます。
  • ITSMチケットの更新:プレイブックがITSMチケットのステータスを「解決済み」に更新し、関係者に対応完了を通知してワークフローは終了です。

SOAR自動化の「やりすぎ」を防ぐ3つの重要ポイント

SOARによる自動化は非常に強力ですが、設計を誤ると「自動化のやりすぎ」が原因で、正常な業務を停止させてしまう可能性があります。安全かつ効果的に自動化を進めるための3つのポイントを解説します。

ポイント1:ビジネス影響の大きい処理には「人手承認」を挟む

全てのプロセスを無条件に自動化する「完全自動化」は、特に導入初期にはリスクが高いです。そこで、プレイブックの重要な分岐点に「人手承認」のステップを組み込むことが重要になります。

人手承認を設けるべきアクション例

  • 端末のネットワーク隔離
  • ファイアウォールでのIPアドレス遮断
  • システムのクリーンアップ後の隔離解除
  • アカウントの無効化やパスワードリセット

SOARがチャットツールに承認依頼を送信し、アナリストが「承認」「拒否」ボタンをクリックするだけでプロセスが進むように設計することで、安全性と効率性のバランスを取ることが可能です。

ポイント2:「段階的実行」でスモールスタートする

いきなり複雑で影響範囲の広いプレイブックを本番導入するのは賢明ではありません。「段階実行」のアプローチで、失敗のリスクを最小限に抑えましょう。

  1. 影響の少ないプロセスから開始:「SIEMアラートの情報収集とエンリッチメント」「ITSMへのチケット自動起票」など、システムに直接変更を加えないタスクから自動化を始めます。
  2. 監視モード(ドライラン)で検証:隔離などのアクションを実際には実行せず、「もし実行されたらこうなる」というログだけを出力するモードで運用。プレイブックが意図通りに動作することを十分に検証します。
  3. 段階的に自動化レベルを上げる:検証後、まずは「人手承認付きの隔離」を有効化し、最終的に信頼性の高い特定のアラートのみ「完全自動隔離」を許可するなど、徐々に自動化のレベルを引き上げます。

ポイント3:「監査ログ」を徹底的に取得・監視する

自動化されたプロセスは、その挙動がブラックボックス化しやすいため、「いつ、誰が、何を、どのように実行したか」を詳細に記録する監査ログの取得と管理が不可欠です。

プレイブックの実行履歴や各アクションの結果を記録した監査ログは、インシデント対応のレビューや、監査の際に正当性を証明する重要な証拠となります。また、プレイブックの実行が失敗した場合に即座にアラートを通知する仕組みを構築し、自動化プロセスの異常に迅速に気づけるようにすることも重要です。


SOARプレイブック導入のメリットと注意すべき課題

SOARとプレイブックの導入は、セキュリティ運用に大きな変革をもたらします。メリットと、事前に理解すべき課題を整理しました。

SOAR導入で得られる4つのメリット

SOAR導入の主要メリット

  • インシデント対応の迅速化:数時間かかっていた初動対応を数分単位に短縮し、被害拡大を最小限に抑えます。
  • 対応プロセスの標準化:アナリストのスキルに依存せず、常に一定品質の対応を実現し、属人化を排除します。
  • SOCアナリストの負荷軽減:定型作業から解放され、アナリストは脅威ハンティングなど、より高度な業務に集中できます。
  • セキュリティ投資対効果の最大化:既存のセキュリティツール群を有機的に連携させ、組織全体のセキュリティ対策の効果を高めます。

導入前に理解すべき3つの課題と対策

SOAR導入における課題と対策

  • プレイブック設計の複雑さ:効果的なプレイブック作成には、業務やシステムへの深い理解が必要です。 対策:最初から完璧を目指さず、特定のユースケースに絞ってスモールスタートし、継続的に改善する。
  • 誤検知による過剰対応リスク:誤検知アラートがトリガーとなり、正常な業務を妨害する可能性があります。 対策:SIEMの相関ルールを日頃からチューニングし、重要なアクションには人手承認を挟む。
  • ツール連携の技術的ハードル:API連携には専門的な知識やスキルが必要になる場合があります。 対策:連携用コネクタが豊富なSOAR製品を選んだり、ベンダーの導入支援を活用したりする。

SOARプレイブックに関するよくある質問(FAQ)

Q1: SOARとSIEMの違いは何ですか?

A: SIEMは脅威を「検知」するためのシステム、SOARは検知された脅威に「対応」するためのシステムです。SIEMが「監視カメラ」で、SOARがその情報を受けて対処する「自動化された警備システム」と考えると分かりやすいです。両者を連携させることで、検知から対応までをシームレスに効率化できます。

Q2: プレイブックは自社で一から作る必要がありますか?

A: その必要はありません。多くのSOAR製品には、マルウェア感染やフィッシングなど、一般的なインシデントに対応するためのテンプレートが標準で用意されています。まずはこれらのテンプレートを自社の環境や運用プロセスに合わせてカスタマイズすることから始めるのが効率的です。

Q3: 中小企業でもSOARは導入できますか?

A: 可能です。近年ではクラウドベースで提供される比較的安価なSOARソリューションや、MDRサービスの一部としてSOARの機能を提供するベンダーも増えています。自社のセキュリティ予算や人材リソースに合わせて、最適なツールやサービスを選択することが重要です。


まとめ:安全な自動化で、次世代のセキュリティ運用を実現しよう

本記事では、SOARプレイブックの基本概念から、マルウェア感染対応を例にした具体的な設計フロー、そして「自動化のやりすぎ」を防ぐための人手承認、段階実行、監査ログの重要性について詳しく解説しました。

SOARによるセキュリティ運用の自動化は、SOCの負荷を劇的に軽減し、インシデントレスポンスを迅速化・標準化するための強力な武器となります。しかし、その効果を最大限に引き出すためには、慎重なプロセス設計と段階的なアプローチが不可欠です。

これから自動化に取り組む方は、まず自社のインシデント対応プロセスの中で、最も定型的で発生頻度の高い作業は何かを洗い出すことから始めてみてください。そこが、あなたの組織における最初のSOARプレイブックを適用する最適な候補となります。このガイドを参考に、安全で効果的なセキュリティ自動化への第一歩を踏み出し、より強固なセキュリティ体制を構築してください。

この記事のまとめ
  • SOARプレイブックは、手動でのインシデント対応の限界を解消し、セキュリティ運用を自動化・効率化する基盤となります。
  • 具体的なマルウェア感染対応フローを通じて、検知から復旧までの自動化プロセスを詳細に理解できます。
  • 「人手承認」「段階的実行」「監査ログ」の3つのポイントを守ることで、自動化の「やりすぎ」を防ぎ、安全な運用を実現します。
  • SOAR導入は、インシデント対応の迅速化、標準化、アナリストの負荷軽減、セキュリティ投資対効果の最大化に貢献します。
  • まずは発生頻度の高い定型作業から自動化を試み、このガイドを参考に安全なセキュリティ自動化へ踏み出しましょう。

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初回公開日:2026年01月20日

記載されている内容は2026年01月20日時点のものです。現在の情報と異なる可能性がありますので、ご了承ください。また、記事に記載されている情報は自己責任でご活用いただき、本記事の内容に関する事項については、専門家等に相談するようにしてください。

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