IT人材のためのキャリアライフスタイルマガジン

証拠保全の実務:メモリダンプ/ディスクイメージ取得前にやるべき5つのこと

更新日:2026年01月20日

ITキャリア

1分でわかるこの記事の要約 サイバー攻撃発生時、安易なメモリダンプやディスクイメージ取得は、電子的証拠を破壊するリスクがあります。 フォレンジック調査の成功は、データ取得前の「初動対応」で決まり、適切な手順が不可欠です。 […]

1分でわかるこの記事の要約
  • サイバー攻撃発生時、安易なメモリダンプやディスクイメージ取得は、電子的証拠を破壊するリスクがあります。
  • フォレンジック調査の成功は、データ取得前の「初動対応」で決まり、適切な手順が不可欠です。
  • 本記事では、証拠保全における証拠の完全性と同一性を保つため、実施すべき5つのステップを解説します。
  • 具体的には、タイムライン作成、関連ログ保全、証拠汚染防止、体制構築、手順確認が挙げられます。
  • 平時からの事前準備と外部専門家との連携が、インシデント対応の成否を分ける鍵となります。
サイバー攻撃や内部不正といったインシデントが発生した際、現場は混乱を極めます。「一刻も早く原因を究明し、被害を食い止めなければ」という焦りから、すぐにPCのメモリダンプやディスクイメージの取得に走りがちです。 しかし、その行動が、最も重要な電子的証拠を破壊してしまう可能性があります。 デジタルフォレンジック調査の成否は、技術的なデータ取得作業そのものよりも、その前段階である「初動対応」で決まると言っても過言ではありません。 本記事では、デジタルフォレンジックの実務において、Memory DumpやDisk Imageの取得前に絶対に行うべき5つの重要ステップを、具体的な注意点とともに専門家が解説します。

なぜメモリダンプやディスクイメージ取得「前」の対応が重要なのか?

デジタルフォレンジックにおける証拠保全の目的は、インシデントに関する電子的証拠を、その「完全性」「同一性」を維持したまま収集・分析し、法的な証拠能力を持たせることです。

  • 完全性(Integrity): 証拠が改ざん、破壊、消失していない状態。
  • 同一性(Authenticity): 収集した証拠のコピーが原本と寸分違わず同じであることを証明できる状態。

初動対応を誤ると、これらの原則が根本から崩れてしまいます。 例えば、慌てて対象コンピュータを再起動すれば、メモリ上にしか存在しない貴重な揮発性情報(実行中のプロセスやネットワーク接続状況など)はすべて消え去ります。また、不用意にファイルを開いたりソフトウェアをインストールしたりすれば、タイムスタンプが更新され、元の証拠が上書きされてしまうのです。

このように汚染された電子データは、法廷での「法的証拠」としての能力を失いかねません。だからこそ、技術的な保全作業に着手する前に、証拠の価値を最大限に保つための冷静かつ的確な手順を踏むことが、インシデントレスポンスにおいて極めて重要なのです。


ステップ1:タイムラインを作成し、インシデントの状況を記録する

インシデント対応の第一歩は、状況を正確に把握し、客観的な事実を時系列で整理することから始まります。これを「タイムラインの作成」と呼びます。パニック状態では記憶が曖昧になりがちですが、この初期段階での記録が、後のフォレンジック調査の羅針盤となります。

まず、以下の5W1Hを基準に、判明している情報をすべて書き出しましょう。

5W1Hで記録すべき事項

  • When(いつ):インシデントを最初に検知した日時、不審な現象が始まった日時
  • Where(どこで):どのサーバー、PC、システムで発生したか(ホスト名、IPアドレスなど)
  • Who(誰が):最初に発見した人、報告を受けた人、現在対応している人
  • What(何が):どのような事象か(例:ランサムウェア感染、不審通信、Webサイト改ざん、データ漏洩の可能性)
  • Why(なぜ):推測される原因や攻撃経路(現時点で不明な場合は「不明」と記載)
  • How(どのように):どのような経緯でインシデントが発覚したか

ここで重要なのは、「事実」と「推測」を明確に区別して記録することです。例えば、「C&Cサーバーとの通信を検知した」は事実ですが、「標的型攻撃メールが原因だろう」は現時点では推測です。この区別が、調査の方向性を誤らせないために不可欠です。

作成したタイムラインは、その後のすべての対応作業の記録媒体となります。誰が、いつ、何のために、どのような作業を行ったかをすべて時刻とともに記録し続けます。 (例:「1月20日 11:30 ネットワークからの隔離を実施(担当:鈴木)」、「1月20日 12:00 法務部門へ第一報(担当:田中)」) この詳細な記録は、報告書作成時や法的手続きの際に、対応の正当性を証明する強力な証拠となります。


ステップ2:関連ログを特定・保全し、攻撃の全体像を把握する

インシデントが発生したコンピュータの保全は非常に重要ですが、それだけでは攻撃の全体像を把握できません。多くの場合、攻撃者はネットワーク上の複数の機器を経由するため、対象端末だけでなく、関連するあらゆる機器の「ログ保全」が極めて重要になります。

保全すべきログの代表例

  • ネットワーク機器のログ:ファイアウォール、IDS/IPS、WAF、ルーター、スイッチなど。不審な通信の出入りを特定します。
  • サーバーのログ:プロキシサーバー、DNSサーバー、メールサーバー、Webサーバー、認証サーバー(Active Directory)など。不正アクセスやマルウェアの通信経路を追跡します。
  • OSのログ:WindowsのイベントログやLinuxのsyslogなど。不正ログインや不審なプロセスの実行記録が含まれます。
  • アプリケーションのログ:業務アプリやデータベースの操作ログ。特定のデータへのアクセス履歴を特定します。
  • 監査ログ:重要なシステムやデータへのアクセス記録。誰がいつ何をしたかを証明する上で欠かせません。

ログ保全における最大の注意点は「消失」です。多くのシステムでは、ログは一定期間で自動的に上書き(ローテーション)または削除されます。インシデントを検知したら、直ちに対象期間のログが消える前に、別の安全な場所にコピーして保全してください。

また、各機器の時刻設定がNTPサーバー等で同期されているかも確認しましょう。時刻のズレは、後の相関分析の大きな障害となります。


ステップ3:証拠の汚染を防ぐ(上書き・改ざん防止措置)

電子的証拠の価値を守る上で、最も基本的かつ重要なのが「証拠の上書き・改ざん防止」です。不用意な操作一つで、決定的な証拠が永遠に失われる可能性があります。

【厳禁】証拠価値を失うNG行動リスト

【厳禁】証拠価値を失うNG行動リスト

  • 安易な再起動・シャットダウン: メモリ上の揮発性情報(実行中プロセス、ネットワーク接続状況など)がすべて失われます。
  • 一般ユーザーアカウントでのログイン: ログインだけでプロファイル情報や各種ログが更新され、証拠が上書きされます。
  • アンチウイルスソフトのスキャン実行: マルウェア検体そのものが証拠であるにもかかわらず、スキャンで自動駆除・隔離され、解析が困難になる恐れがあります。
  • 調査ツールのインストール: 保全対象のディスクに新しいデータを書き込む行為は、証拠隠滅につながるため厳禁です。調査ツールは必ず外部USBメモリなどから実行します。

被害拡大と証拠汚染を防ぐ「封じ込め」

これらのNG行動を避けるため、「Containment(封じ込め)」を実践します。これは、被害の拡大を防ぎ、同時に証拠を保全するため、対象コンピュータをネットワークから隔離する行為です。

LANケーブルを抜く、無線LANを無効にするといった物理的な隔離が最も確実です。これにより、マルウェアの外部通信や内部感染拡大を防ぎます。

さらに、物理的なアクセスを制限し、権限のない人物が触れないようにすることも重要です。Disk Image取得時には、書き込みを物理的に防止する「ライトブロッカー」という専用機材を使用するのが理想的です。


ステップ4:インシデント対応体制を構築し、役割分担を明確化する

インシデントレスポンスは、情報システム部門だけの仕事ではありません。技術対応と並行して、組織全体で連携し、適切な意思決定を行うため、指揮命令系統と役割分担を明確にする必要があります。

インシデント発生時に連携すべき主な関係者

  • 技術対応チーム(CSIRT/SOC):分析、封じ込め、証拠保全、復旧などの技術実務を担当。
  • 法務・コンプライアンス部門:法的リスク評価、監督官庁への報告、弁護士との連携を担当。
  • 広報・IR部門:顧客やメディアなど、外部への情報開示やコミュニケーション戦略を担当。
  • 経営層:事業継続への影響、復旧の優先順位、情報開示のタイミングなど、最終的な意思決定を担当。
  • 人事・総務部門:内部不正が疑われる場合の従業員への対応を担当。
  • 外部専門家:高度なフォレンジック調査や法的対応が必要な場合に支援を依頼。

重要なのは、迅速かつ正確な情報共有と、明確な役割分担です。誰が指揮を執り、誰が何について決定権を持つのかが曖昧だと、対応が後手に回り、混乱が拡大します。事前に緊急連絡網やインシデント対応体制図を作成し、訓練しておくことが鍵となります。


ステップ5:保全対象と手順を文書化し、最終確認を行う

初動対応が完了したら、いよいよメモリダンプやディスクイメージの取得に移ります。しかし、ここでも焦りは禁物です。作業を開始する前に、最終的な計画と手順を確認し、文書化することが重要です。

「何を、なぜ、どのように」保全するのかを明確にしましょう。

保全作業前の最終確認事項

  • 保全対象(何を):インシデントに直接関与しているサーバーやPCを特定する。
  • 保全目的(なぜ):調査で何を明らかにしたいのかを定義する(例:「マルウェアの侵入経路特定」「情報漏洩範囲の特定」など)。
  • 保全手順(どのように):使用ツール、担当者、具体的な手順を記述した手順書を用意する。原則として、揮発性情報が失われる前にメモリダンプをディスクイメージ取得より先に行います。

また、取得したデータの完全性を証明するため、取得元ディスクと取得後イメージファイルのハッシュ値(MD5, SHA256など)を計算・記録することは必須です。ハッシュ値が一致すれば、コピーが原本と同一であることが数学的に証明され、証拠能力が担保されます。

これらの計画と記録は、後の調査報告書や法廷提出資料の基礎となる重要なドキュメントです。


フォレンジック調査を成功させるための事前準備

これまで述べた5つのステップの精度とスピードは、平時からの「事前準備」に大きく左右されます。

  • インシデント対応計画(IRP)の策定:インシデントの種類ごとに対応フロー、体制、連絡網を文書化する。
  • 証拠保全手順書の作成:自社環境に合わせた具体的な証拠保全の手順書を作成・共有する。
  • ツールの準備と訓練:フォレンジックツール(FTK Imagerなど)、ライトブロッカー、保管用ストレージを事前に用意し、定期的に訓練を行う。
  • ログの集約と長期保管:平時から主要機器のログをSIEM等で集約管理し、十分な期間(最低1年以上)保管する体制を構築する。
  • 外部専門家との連携体制:信頼できるフォレンジックベンダーや弁護士と事前に契約を結んでおく。

これらの事前準備が、インシデントという危機的状況を乗り越え、組織の損害を最小限に抑えるための礎となります。


まとめ:証拠保全の成否は初動対応で決まる

デジタルフォレンジックにおける証拠保全は、単なるデータ取得作業ではありません。インシデントの全容を解明し、法的な証拠能力を確保するための一連の体系的なプロセスであり、その成否はデータ取得前の初動対応にかかっています。

メモリダンプ/ディスクイメージ取得前にやるべき5つのステップ

  1. タイムラインの作成と記録:客観的な事実を時系列で整理する。
  2. 関連ログの特定と保全:攻撃の全体像を把握するために不可欠。
  3. 証拠の上書き・改ざん防止措置:「封じ込め」を徹底し、証拠の価値を守る。
  4. 関係者の整理と役割分担の明確化:組織として連携し、迅速な意思決定を行う。
  5. 保全対象と手順の最終確認:計画的かつ慎重に技術的作業を進める。

これらのステップを確実に実行することが、信頼性の高い調査の第一歩です。そして、有事に冷静に対応するためには、平時からの計画、手順書の整備、訓練といった事前準備が何よりも重要です。もし自社での対応に不安がある場合は、躊躇なく外部の専門家の支援を求めることも賢明な判断と言えるでしょう。

この記事のまとめ
  • デジタルフォレンジックにおける証拠保全は、技術的データ取得よりも初動対応が最も重要です。
  • タイムライン作成、関連ログ保全、証拠汚染防止、体制構築、手順確認の5ステップを徹底しましょう。
  • 不用意な操作は揮発性情報の消失や証拠の上書きにつながるため、封じ込めが不可欠です。
  • 正確な情報共有と明確な役割分担、そしてハッシュ値による完全性証明は、法的な証拠能力を担保します。
  • インシデント対応計画の策定や外部専門家との連携など、平時からの事前準備が成功の鍵となります。

マモリスのご紹介

マモリス(Mamoris)は、企業の情報資産を守るためのセキュリティサービスです。
端末上の操作や各種ログをもとに、社内不正や情報漏えいにつながりやすいリスクの“兆し”を可視化し、状況に応じた対策につなげます。
セキュリティと業務効率のバランスを大切にしながら、現場で運用しやすい形で「見える化 → 判断 → 改善」を進められるのが特長です。
詳しくは公式サイトをご覧ください:mamoris-secure.com
初回公開日:2026年01月20日

記載されている内容は2026年01月20日時点のものです。現在の情報と異なる可能性がありますので、ご了承ください。また、記事に記載されている情報は自己責任でご活用いただき、本記事の内容に関する事項については、専門家等に相談するようにしてください。

関連する記事

アクセスランキング