IT特化の社労士、村田氏に聞く「会社を蝕むモンスター社員問題」前編

企業の労務管理を行う社労士として働くという特殊なキャリアを持つ村田社労士。多くのIT企業、エンジニアの労務相談などを行う村田氏に、IT企業にありがちな「無意識のブラック企業化」「エンジニアのブラックワーク」についてお伺いしました。

企業の労務管理を担う、社労士の仕事

「本日はよろしくお願い致します。まず初めに、『社労士の仕事』を簡単に教えて頂いてもよろしいですか?」

村田社労士(以下村田氏):労務管理ですね。大きく言うとまず、従業員が入社した、退社したっていうのは手続きが法的に必要なので、そういった全ての手続きをします。それ以外には、労務管理として、就業規則、会社のルール作りをしたり、雇用契約書を作ったり。そういった社内の環境を整備することをします。もう一つは労務管理を元に労務相談を受けるということですね。

労務相談は、企業、従業員両方からあるんです。困った社員がいるということは、困った会社もある。基本的に社労士としての立場というのは、お客様はたいてい事業主なので、事業主側に立つことは多いですけどね。

就業規則を作るときに気づく自社の「ブラックさ」 

「なるほど。事業主側に立つことっていうのは具体的にどのようなことをされるのですか?」

村田氏:事業主側から受ける相談っていうのは、大きく分けると2個あります。問題社員に対応したいというものが1点、もう1点は大きい枠で言うと、現状が良いのか悪いのかも分からない、というものです。それでどうしたらいいのかと。妥当な所は時代によっても変わってきますよね。

例えば20年前30年前だと、CMでもあったように「24時間働けますか」みたいなのがあって、いっぱい働くのが当たり前だったじゃないですか。そういうのが、時代によって、今、変わってきているものもあるので、どういう風にしたらいいのかっていうことを伝えるんです。

ブラック企業って、意図して悪い環境にしているということはほぼ無くて、事業主に知識がないんです。それこそエンジニアの方が自分で独立した時に、自分がこういう風にやってきたから、そうやって働くのが当たりまえでしょ?って過酷な環境を当たり前としてしまう。そうやってブラックな環境が当たり前になっちゃうんです。

「なるほど。上がゴリゴリ働いて、それが当たり前のものとして下におりていくっていう。でも人数が増えた時にどうするのかっていう問題が。」

村田氏:ありますね。で、そういうのって、上がそういう人であればあるほど。やっぱり下も帰りにくかったり、そういう空気ができちゃうのでブラック企業になっちゃうんですよ。知らず知らずのうちにというのが大きいと思います。多分、従業員の方々も、大学卒業したり専門学校卒業したりして入ってこられる方って、意識したことないと思うんですよ。なので、そういうもんなんだって言われると、上の人も同じように働いてらっしゃるわけじゃないですか。そういうもんになっちゃうんですよね。それが常識に。っていうのが、IT業界のブラックって言われてる一番大きいところだと思います。大半のところは。

気づくタイミングは「就業規則を作りたいと思ってた」っていう時に多いです。就業規則を作るにあたって、そもそもどこから手をつけていいか分からない。それでそういう話しをしてみると、本当はそれはまずいですよっていう状態のところが多いですね。就業規則っていうのは、10人以上の会社は必ず作って出さなくてはいけないという決まりがあって、そういう時に断片的に情報が入ってくるというのがあって、作ろうってなった時に、どうやって作ればいいのか分からない、そこで声がかかる感じですね。

ミスマッチは事業者にとっての大きな問題

会社を蝕むモンスター社員問題

村田氏:それがIT企業の中での大きい問題。次に問題のある社員がいるっていうのは今度会社側が困っているときなんですけど、よく受けるのはやっぱりミスマッチですよね。会社としても、面接でちょっと話しただけというのは難しいですし、ITだとさらに技術も入るので、成果物を持ってきてくださいって言った時に、だいたいプロジェクトで動いてるじゃないですか。自分はちょびっとしか手をつけていないのに、これを作りましたって持ってこられるとわかんないんですよね。

その人もかわいそうな所があって、これをやってくれって言われてそのソフトの一部分だけをやって、そもそもそのソフトの他のできる部分があるということを知らされてないんですよ。それが全てだと思ってそれができますって言っちゃったら、実は違う会社に行ったらもっと広い範囲でやらされたとか。っていうのがあって、技術が追いつかないと。でも実際取ってるんで、プロジェクトにはある程度予算も組んで人数も決まってるじゃないですか。それでやらされて、結局ついていけないとか。

「なるほど。自分の能力のレベルがわからなかったり。」

知らなかったり、何が分からないのか分からないと。でも会社からみるとそれは問題社員なんですね。自分の実力に気づけない、能力値を把握できていないというのも能力不足ですよね。だから本当に能力が低いだけなんですけど、そこは会社が人を見る技術を身につけることも必要なのかなと。

会社を蝕むモンスター社員問題

村田氏:あと逆にIT業界って、本当に重い問題の話になるんですけど、今人材が足りないじゃないですか。で、本当に『モンスター社員』っているんですよ。悪い社員が。悪い社員が問題を起こして、例えばBrandingEngineerを辞めますと。それで他の会社に行った時に、取ってくれちゃうんですよね。その情報も知らないので。で、問題を起こす、でもすぐまた次にいける、と。これが問題なのは、それをやっている人はある程度知識のある人が多いことです。それで適当な所で働いて、これがおかしいだの、うちはこれを与えられていないだの言って大騒ぎして示談金でも何でももらったりとかするんですね。そういうのもあります

「それはけっこうひどい話ですね」

村田氏:そうなんですよ、けっこうひどい話です。だから、事業主の人も、あんまり労っていうのは二の次なんですよ。やっぱり自分の仕事が一番であって、次にやっぱお金のことなんですよね。その順番どっちが一位かって言うのはずれたりしますけど、で、その次なんですよね、労務って。その辺が安定してきてから労務って考えが行くことなので。まあ仕方ないことだとは思うんですけど。ただ、そういうところを逆手にとられて、そういうモンスターにやられてしまったりだとか。運悪く、働きすぎで社員が過労で倒れちゃったりだとか。責任感強い人って働くじゃないですか。それで倒れちゃうっていうのはやっぱりありますので。というような問題が、大きく見るとありますよね

「なるほど。労務管理に詳しいモンスターがいると」

村田氏:そうですね。今ネットで調べると、すぐ出てくるんですよ。一昔前だったら、本とかで調べたりだとか、新聞だったりしたんですけど、それを今ネットで調べやすい世の中になっていて、しかも、弁護士とかも安値で受けるんですよね、そういうモンスター案件を。なので闘いやすい世の中になってるんですよ。そういう両方の視点で見ての問題っていうのはあって、今回はその助成金を使うと何でいいのかっていうのにもなるんですけど、助成金をやるイコール就業規則を整えなくてはいけないっていうルールがあるじゃないですか。

就業規則を作りましょうってことで、就業規則を作って、まず就業規則がないっていうと、会社に就業規則がないと何が悪いかっていうと、ルールがもうないので、会社としては、なにをしても罰が与えられないんですよ。例えば、遅刻をしてきますとか、業務中さぼってインターネットショッピングしてても罰が与えられない。だからもう好き放題なんですよね。それを、作ることでそういうことはさせない。

あと、作るときは会社の事業主さんと作るので勉強してもらいます。話しをしながら。なので、最低限、押さえるべきところは押さえておいてもらう。よほどのモンスターは確信犯でやってくるのであれなんですけど、そういうのじゃない限り、例えば知識不足でだめになったとか、っていう事案はなくせるんですよ。それで中途半端なモンスター事案も消せるんです。なので、今ある問題の割合がどうこうってことは言えないんですけど、まあ何となく漠然とイメージはつきましたかね。

インタビュー後編:「IT特化社労士、村田氏に聞く「ブラック企業のやめ方」後編」に続く

[筆者プロフィール]

村田 吉典
東京都生まれ。武蔵大学経済学部経済学科卒業。 卒業後は物流会社で社内SEとして勤務していたが家業の工務店を継ぐために退職。
労務管理の重要性に気づいたことから、労務管理に関心を持ち、独学で社会保険労務士試験に合格。

合格後は神奈川県にある社会保険労務士事務所で勤務。2014年9月に品川にて村田社会保険労務士事務所を設立した。主に助成金、就業規則の作成、労務管理事務の支援、労務の仕組み設計の支援を行う。