[allpage_toc]
「企業経営で聞くようになった、プレゼンティーズムって何?」
プレゼンティーズムやアブセンティーズム、これらを述べるうえで重要となる健康経営について、実はよく知らない人もいるのではないでしょうか。
本記事では、プレゼンティーズムとアブセンティーズムについて触れ、次にこれらの原因や問題点、また企業経営でどのように用いられるのかなどを紹介していきます。
プレゼンティーズムやアブセンティーズムについて詳しく知りたい方は、ぜひチェックしてみてください。
プレゼンティーズムとは何か?
近年企業の経営について考えていく中で、従業員の健康問題に起因したパフォーマンスの損失が注目されるようになっています。この損失は、WHO(世界保健機関)によって提唱された指標で「プレゼンティーズム」と「アブセンティーズム」の2つがあります。
まず、プレゼンティーズムは従業員が職場に出勤しているものの、メンタルヘルス不調、感染症やアレルギー、偏頭痛、さらに生活習慣病などによって引き起こされる業務効率の低下を指す言葉です。
プレゼンティーズムの先行研究は多くあり、アメリカ・ミシガン大学研究成果『金融関連企業における従業員の健康関連コストの全体構造図』では、プレゼンティーズムが占める割合が最も大きくなっていることを示しています。
出典・参照: データヘルス・健康経営を推進するためのコラボヘルスガイドライン|厚生労働省保健局
出典・参照: 健康経営オフィスレポート|経済産業省
アブセンティーズムとは何か?
アブセンティーズムは従業員の健康問題による仕事の欠勤であり、生産性の損失のことを指します。
アブセンティーズムは表に現れやすいため、経営者にとっても目につきやすい生産性損失の項目といえるでしょう。しかしながら、前述したミシガン大学の研究成果をはじめ、東京大学の研究結果においても、アブセンティーズムはあまり大きな割合を示していません。
ここからは、このアブセンティーズムとプレゼンティーズムを引き起こす原因についてみていきましょう。
出典・参照: データヘルス・健康経営を推進するためのコラボヘルスガイドライン|厚生労働省保健局
出典・参照: 健康経営オフィスレポート|経済産業省
プレゼンティーズムやアブセンティーズムになる原因
プレゼンティーズムとアブセンティーズムのどちらも、従業員の健康問題が起因したものです。両者の原因は共通することが多く、運動器・感覚器障害、メンタルヘルス不調、心身症、生活習慣病、そして感染症・アレルギーの5カテゴリーに分けられます。
具体的にみていくと、運動器・感覚器障害では頭痛、腰痛、肩こり、眼精疲労、メンタルヘルス不調ではうつ病、ワーク・エンゲイジメント(働きがい)、メンタルストレスなどです。
出典・参照: 健康経営オフィスレポート|経済産業省
プレゼンティーズムやアブセンティーズムの問題点
プレゼンティーズムやアブセンティーズムは心身の健康問題が原因であるため、これらがもたらす弊害は大きくなるおそれがあります。
以下では、プレゼンティーズムやアブセンティーズムが抱える問題点について詳しくみていきましょう。
体調が悪化する
出社できているものの、健康問題によって生産性が低下してしまうプレゼンティーズムは勤怠管理などの表に出てこないため、そのまま仕事を続けてしまうケースが指摘されています。
特に高い専門性を要する職種や役職に就いている場合は、任されている仕事の代替者が取れず、仕事を休むことができない状況に陥っている場合もあるでしょう。
その結果、数年の間に体調の悪化を自覚するようになり、冠動脈疾患やうつ病などの罹患率増加、そして長期休業へとつながっていくおそれがあります。
[no_toc]
感染症が蔓延する
前述したように、プレゼンティーズムは通常の状況においても対応が遅くなりやすい傾向がありますが、そこに新型コロナウイルスの流行が追い打ちをかけている可能性があります。
新型コロナウイルスは検査や継続的な治療・療養を必要とするため、仕事との兼ね合いが取れず治療を中断してしまうケースが発生しています。その結果、職場での蔓延が引き起こされるのではと、指摘されているのです。
企業に与える損失が大きい
プレゼンティーズムが持つ大きな問題点は企業における労働生産性の損失、健康関連の総コストに占める割合が高いことでしょう。
労働生産性の損失については、アメリカの先行研究をみていくと理解できます。この研究によると、健康リスク数が増加するほど労働生産性の損失割合が上がっているのです。
特にプレゼンティーズムによる損失は、アブセンティーズムよりも大きくなっていることが指摘されています。
また、日本国内においてもプレゼンティーズムとアブセンティーズムに対する調査研究が実施されており、生産性の測定方法が共通する3企業・組織の健康関連総コストでは、プレゼンティーズムが占める割合が7割以上となっています。
出典・参照:「健康経営」の枠組みに基づいた健康課題の可視化及び全体最適化に関する研究|東京大学 政策ビジョン研究センター
出典・参照:コラボヘルスガイドライン|厚生労働省
生産性への影響度を評価する指標
企業や組織が、従業員の健康保持や増進の取り組みを行うことで生産性を向上させ、将来的な収益性などを高める投資であるという考えのもと、従業員の健康管理を経営的視点で捉えて戦略的に実施することを「健康経営」といいます。
健康経営を実施する際に、その取り組み内容や実行体制を評価するための健康経営評価指標が設定されています。この評価指標では、健康経営の質を評価するアウトカム指標として、プレゼンティーズムとアブセンティーズムが中心に策定されているのです。
以下ではプレゼンティーズムとアブセンティーズムを評価指標とし、実際に生産性への影響を評価する際の方法についてみていきましょう。
プレゼンティーズム
生産性への影響を評価する指標であるプレゼンティーズムは、企業ごとに取り扱いが異なります。また、プレゼンティーズムを測定していることが少ないため、下記に5つの評価方法を具体例として紹介します。
出典・参照: 企業の「健康経営」ガイドブック~連携・協同による健康づくりのススメ(改訂第1版)~|経済産業省 商務情報政策局
評価手法 | 概要および評価の際の注意事項 |
---|---|
WHO-HPQ | WHOで使用される「WHO健康と労働パフォーマンスに関する質問紙」を用い、 3つの問いで評価する。この時の得点方法は、「絶対的プレゼンティーイズム」と「相対的プレゼンティーイズム」で表示される。 ただし、 プレゼンティーイズムをコスト換算する場合には、相対的プレゼンティーイズムを用いることを推奨する。(年1回、あるいは月1回実施) |
東大1項目版 | 東京大学WGによって作成された、プレゼンティーイズムの意味をそのまま反映したアンケート。質問数は1問。(月1回実施) |
WLQ(Work Limitations Questionnaire) | 4つの尺度(「時間管理」5 問、「身体活動」6 問、「集中力・対人関係」9 問、「仕事の結果」5 問)で構成される。 回答は、体調不良などの健康問題によって職務が遂行できなかった時間の割合や頻度を、「常に支障があった」~「まったく支障はなかった」の5段階、および「私の仕事にはあてはまらない」から選択する。(年1回実施) |
WFunn(Wrok Functioning Impairment Scale) | 産業医科大学によって開発された、健康問題による労働機能障害の程度を測定するための調査票。 7つの問いから聴取し、合計得点(7~35 点)で点数化する。高得点なほど労働機能障害の程度が大きい。21点以上が中程度以上の労働機能障害があると判断可能。(年1回実施) |
QQmethod | 何らかの症状(健康問題)の有無を確認。 4つの質問で構成され、「仕事に一番影響をもたらしている健康問題は何か」、「この3か月間で何日間その症状があったか」、「症状がない時に比べ、症状がある時はどの程度の仕事量になるか(10段階評価)」、「症状がない時に比べ、症状がある時はどの程度の仕事の質になるか(10 段階評価)」を把握する。(年1回実施) |
アブセンティーズム
アブセンティーズムもプレゼンティーズムと同じように企業ごとに取り扱いが異なります。また、測定していることが少ないため、下記に3つの評価方法を具体例として紹介します。
出典・参照: 企業の「健康経営」ガイドブック~連携・協同による健康づくりのススメ(改訂第1版)~|経済産業省 商務情報政策局
評価手法 | 概要および評価の際の注意事項 |
---|---|
従業員へのアンケート調査 | 「昨年1年間に、自身の病気で何日仕事を休みましたか」という質問により、アブセンティーイズムを自己申告し把握する。病気によって休んだ日数(有給休暇含む)を把握するが、アンケート方法によっては欠損値が多く出てしまう可能性に注意が必要。 |
欠勤・休職日数 (代替指標) | 有給休暇取得後の欠勤・休職は疾病理由が主であることから代替指標として利用し把握する。病欠による休暇取得日数は正確に把握できていないことが多いため、過小評価されている可能性に注意が必要。 |
疾病休業者数・ 日数 | 企業が保有する人事データを活用し、「疾病休業開始後、暦30 日以上(有給休暇を除く)の疾病休業の者」を把握する。この時、休業開始日、休業終了日、疾病名 (メンタルヘルス疾患/非メンタルヘルス疾患)を把握すること。 疾病休業開始から暦30日以上の疾病休業者に対して、復職支援などを目指し、健康管理の推進を目的として情報を把握することを推奨。 |
生産性損失のコスト評価
前述したプレゼンティーズムとアブセンティーズムのアウトカム評価指標をもとに、労働生産性損失のコスト評価をします。
評価する際は企業や組織、医療保険者が持つ開示可能データを用いて実施し、「健康関連総コスト換算による評価」、「パフォーマンス低下度による損失額算定評価」の2つから評価します。
また、「健康関連総コスト換算による評価」は、前述した健康関連総コストで示したデータが一例です。
評価手法 | 概要 |
---|---|
健康関連総コスト換算による評価 | ①医療費(総額)②傷病手当金(事業主補填金含む)③労災補償費 ④アブセンティーイズムの日数×総報酬日額 ⑤プレゼンティーイズム 損失割合×総報酬年額 (標準報酬月額×12か月+標準賞与) ①~⑤の合計金額・割合で生産性損失コストの評価を実施する。 |
パフォーマンス低下度による損失額算定評価 | ①1人/日あたり人件費(賞与・各種手当・法定福利費等)×②パフォ ーマンスの低下(※QQmethod)×有症状日数=損失額 ※パフォーマンスの低下=1-{(仕事の量+仕事の質)/2×1/10} あるいは =1-{(仕事の量)/10×(仕事の質)/10}により生産性損失コ ストの評価を実施する。 |
プレゼンティーズムやアブセンティーズムを改善した時のメリット
[no_toc]
プレゼンティーズムやアブセンティーズムを改善することで、医療や保険にかかる費用の削減をはじめ、労働生産性や労働意欲の向上、さらに市場における競争力の優位性を保つと考えられています。
特に市場競争力の優位性については、経済産業省と東京証券取引所が協力して「健康経営銘柄」として選んだ企業があり、選定された企業はTOPIXとの比較において株価が他社よりも優位に推移しているといわれています。
プレゼンティーズムやアブセンティーズムへの対処法
プレゼンティーズムとアブセンティーズムは従業員の健康問題に起因するため、オフィス環境の調整や健康意識の向上、さらに組織体制づくりや制度・施策の実行を行うことが大切です。
以下で、具体的にみていきましょう。
セルフケアをする
まず、オフィス環境での自身の心身の調和と活力の向上を目指すセルフケアを行っていきましょう。
セルフケアは、経済産業省が提言する「健康経営オフィス」で述べられており、従業員の健康を保持・増進する7つの行動に含まれています。具体的には体を動かしたり、休憩・気分転換をしたり、適切な食行動を取ったりすることなどです。
出典・参照: 健康経営オフィスレポート|経済産業省
同僚や上司などがケアをする
メンタルヘルスの不調や心身症など精神に関する不調を予防・改善するためには、職場の同僚や上司などとコミュニケーションを取りサポートし合うことが大切です。
そのためには、「無理をせず、体調が悪い時には職場の仲間に頼ってもいい」と思える状態や関係をつくり、お互いに声をかけやすい環境を目指していきましょう。
職場環境を整える
前述したセルフケアや職場の仲間同士のサポートをスムーズに進めていくためには、それらを後押しするための環境調整が必要です。
具体的にはラジオ体操やストレッチの実施、リラクゼーションルームや仮眠室の設置、オンラインツールを利用した雑談ルームの設置、フリーアドレスの導入などが挙げられます。
事業所内の相談窓口を利用する
従業員が50人以上の企業や事業所の場合は、産業医による職場全体の安全衛生が求められています。産業医などの相談窓口を上手に活用することで、プレゼンティーズムとアブセンティーズムを予防・改善することが期待できます。
事業所外の機関などを利用する
事業所によっては、従業員が50人未満となり産業医が選任されていないケースもあります。こうした場合は、事業所以外の機関を利用してみてください。
たとえば東京都では「地域産業保健センター」を設置し、小規模事業場の事業主や従業員に対して、健康診断結果の相談や面接指導、会社の健康管理や労働環境に対するアドバイスなどを実施しています。
健康意識を高める
プレゼンティーズムやアブセンティーズムを予防・改善するためには、働く人自身が健康意識を高めることも大切です。
そのためには日ごろから食事や身体活動・運動を工夫したり、自分の健康状態や健康に関する情報を積極的にチェックしたりしましょう。
健康経営とは
プレゼンティーズムとアブセンティーズムは、企業や組織の「健康経営」を述べるうえで切り離せない評価です。そのため、健康経営についての理解を深めることも重要でしょう。
前述したように健康経営は、企業などが従業員の健康保持や増進の取り組みを行うことで生産性を向上させ、将来的な収益性などを高める投資であるという考えのもと、従業員の健康管理を経営的視点で捉えて戦略的に実施することです。
これは従来のコスト管理や、コスト面からの医療費適正化という考えから脱し、人を企業や組織における重要な資産と捉える「全体最適」を目指したものといえるでしょう。
[no_toc]
健康経営を実践している企業
健康経営を取り組んでいる企業が社会に認知され評価されるよう、経済産業省では「健康経営オフィスレポート」を刊行し紹介しています。
以下では、このレポートの中から3つの企業を紹介するため、ぜひチェックしてみてください。
株式会社ダスキン
株式会社ダスキンでは、「ダスキン健康宣言」を行い、社員とその家族の健康維持・増進に取り組んでいます。この宣言を実現するために事業所、健康保険組合、労働組合それぞれが協働し三位一体体制で5つのテーマを策定しています。
5つのテーマとは生活習慣病の重症化予防、がん検診の受診促進、メンタルヘルスへの取り組み、健康意識の向上、そして健康白書の公表です。
具体的な取り組みとしては、コミュニケーション空間や休憩スペースになるカフェスペースの設置や、トイレタリーの充実が挙げられます。
出典・参照:社員の安全・健康維持・増進|株式会社ダスキン
株式会社パソナグループ
株式会社パソナグループでは「パソナグループ健康宣言」を実施し、企業活動に関わる全ての人々の心身ともに健康で豊かな生活を送ることを目指しています。
この宣言では「健康的に働く環境を育む」、「健康的な文化を創造する」、「健康的な食を創る」ことを3つの柱とし、社内でも下記の3つのアクションを通じて健康経営に取り組んでいます。
・それぞれのライフスタイルに合わせた多様な生き方の創造
・「ソーシャル・ワーク・ライフ・バランス」の実践を支援
・夢、志、自信、誇りを持ち、働く人材を育成する
アマゾンジャパン株式会社
アマゾンジャパン株式会社では、楽しみながら働くことをモットーとしています。従業員に対して高い成果を求めるだけでなく、自分たちが楽しみながら働くことで新しい考えや行動を起こして、新しい歴史を創り続けることを奨励しています。
具体的には、オフィス内で体を動かせるようにボルダリングウォールを設置したり、物流拠点ではラジオ体操や部活動を実施したりなどです。さらに、働く人たちが適切な食行動を取れるよう、栄養バランスや化学調味料などが少ない食事を提供しています。
プレゼンティーズム・アブセンティーズムや健康経営などについて知ろう
本記事で紹介してきた「プレゼンティーズム」と「アブセンティーズム」、そして「健康経営」は、従業員の健康づくりを経営的な視点で捉えたものです。
少子高齢化が進み労働人口の減少が危惧される日本において、働く人たちの心身の豊かさや健康は重要であるといえます。こうした社会的課題の解決策の1つとして、プレゼンティーズムやアブセンティーズム、また健康経営などが注目されています。
本記事を参考に、ぜひプレゼンティーズムなどの健康経営について理解を深めてみてください。